『見てわかる数学入門ショートストーリー200』発刊のご案内

宮崎 興二会長より

コロナ禍がようやく治まりかけたと思った矢先、思いがけない大事件が勃発して始まった今年、それでも各位にはつつがなくお過ごしのこととお察しします。

そんな中で、最近、会の日野雅之副会長と海野啓明氏に、会とは別にゾムツールの名使い手として知られる石井源久氏が加わって『見てわかる数学入門ショートストーリー200』(丸善出版)という訳本が発売されました。数学に疎い私はその仕事の進捗状況を横から見ていただけですが、ゾムが土台にあるような気がしてうれしくて仕方ありません。

『Maths in Minutes』と題された原著は、きわめて広い範囲のしかも大学院生用のかなり高いレベルの数学の核心部分を中高生にでも理解できるようにわかりやすく説明しようとするものです。そのため重要なテーマだけを200項目選び、1項目について1頁だけで文と図を使って説明しています。数学者に嫌われることがある図はこういうとき役立ちます。とはいえ高等なレベルの内容を初等者向きに説明するのですから、そこには矛盾がからみます。ところがその矛盾は、長年青少年相手に分かりやすい数学を教え実社会で応用もしてきた3訳者の緻密で見事な連携プレーでうまく解消されました。原書に見られたいくらかのミスプリントも修正されています。ゾムクラブの力ここにありです。

日野 雅之副会長より

1項目1ページずつに収まっているとはいえ,それは実は大変なことで,原著者の広く深い見識をもって,過不足なくまとめたり,適切に省略できる技の成果でしょう。各項目を概観できるという用途だけではなく,本書をキーワード集として用いてインターネットで深めるという用途もあるでしょう。ぜひ気軽に数学を楽しんでいただきたいです。

海野 啓明共訳者より

『見てわかる数学入門ショートストーリー200』について、私が担当した箇所(『数』、『集合』、『数列と級数』、『関数と微積分』)で印象的な項目をはじめに紹介します。

まず、『数』の「1」のデューラーの絵 “Boy’s hands” (右手の人差し指と左手の親指が接する図)では人差し指は「一本」という個数を、親指は「一番」という番号を表しているとすれば、個数は計算に関係し、番号は集合に関係するという意味で興味深いです。つぎに,『集合』の「ヒルベルトのホテル」では、客室番号が1、2、3、、、と限りなく番号づけられていて、満室の場合でも新しく来たお客を泊められるので、可算無限集合の不思議さが分かります。そして「床屋のパラドックス」では素朴な集合論が矛盾を見せるのですが、これを解消するために集合論が公理から構成される必要があったということです。さらに「ゼノンのパラドックス」では、その謎を解くために『数列と級数』の「収束数列」においてコーシー列による説明がありますが、「0.9999…」が決して「1」にたどり着かない悩ましさがあるように、収束値が例えば円周率πだともっと悩ましくなります。それが今でも限りなく円周率の値が計算されている原因ではないか?と考えられないでしょうか。

さて、訳者の石井さんが担当した『幾何学』の「相似」では、相似変換(縮小写像)によって “シェルピンスキーの三角形” のような奇妙なフラクタル図形が作られて、その図形の次元が1〜2の間にあることが解き明かされます。また、「埋め尽くし」では平面のタイル張りと空間のタブロック積みを扱い、さらに「ペンローズのタイル貼り」では2種類のタイルによる非周期的タイル張りと準結晶の関係を述べています。ここでは、昨年の大発見(1種類のタイルによる非周期タイル張り)について訳注で紹介されています。

この本を画文集だと思ってあちこち見れば、高度な数学も興味深く楽しむことができると思います。また、色々な疑問が湧いてくると思います。その時はお知らせ頂ければ幸いです。

付記

今回出版された『見てわかる数学入門ショートストーリー200』のほか、ゾムクラブ誕生以後、丸善出版からは会員による次のような図書が出されています。

そのうち『多面体百科』『4次元図形百科』『五角形と五芒星』にゾムの紹介が出ていますが、とくに重大なのはゾム誕生の前のゾムの名前と理論の生みの親コクセターの『正多胞体』で、20世紀最高の幾何学書と言われる原書の欧米世界で唯一の訳本となっています。いずれも入手ご希望の場合、会員は2割引き(郵便振り込み。送料無料)ですので、送付先のお名前、ご住所、電話番号本会事務局までご連絡ください。

※表示の価格はすべて税込です。

2015年 312頁 6,380円
細谷治夫、宮崎興二

2016年 325頁 6,380円
宮崎興二

2017年 381頁 7,480円
宮崎興二、日野雅之、鈴木広隆

2018年 297頁 6,380円
宮崎興二、日野雅之、山下俊介

2019年 275頁 8,360円
宮崎興二、日野雅之、関戸信彰

2020年 253頁 6,380円
宮崎興二

2020年 396頁 2,970円
宮崎興二、日野雅之

2021年 171頁 6,380円
パウロ・パトラシュク、宮崎興二

2022年 234頁 2,640円
細谷治夫、宮崎興二

2023年 176頁 5,940円
宮崎興二、パウロ・パトラシュク

2021年 328頁 7,700円
宮崎興二

2024年 219頁 2,640円
石井源久、海野啓明、日野雅之

特別訳書

H.S.M.コクセター『正多胞体』

2022年 331頁 9,680円
一松信、岡田好一、日野雅之、宮崎興二