海野 啓明共訳者より
『見てわかる数学入門ショートストーリー200』について、私が担当した箇所(『数』、『集合』、『数列と級数』、『関数と微積分』)で印象的な項目をはじめに紹介します。
まず、『数』の「1」のデューラーの絵 “Boy’s hands” (右手の人差し指と左手の親指が接する図)では人差し指は「一本」という個数を、親指は「一番」という番号を表しているとすれば、個数は計算に関係し、番号は集合に関係するという意味で興味深いです。つぎに,『集合』の「ヒルベルトのホテル」では、客室番号が1、2、3、、、と限りなく番号づけられていて、満室の場合でも新しく来たお客を泊められるので、可算無限集合の不思議さが分かります。そして「床屋のパラドックス」では素朴な集合論が矛盾を見せるのですが、これを解消するために集合論が公理から構成される必要があったということです。さらに「ゼノンのパラドックス」では、その謎を解くために『数列と級数』の「収束数列」においてコーシー列による説明がありますが、「0.9999…」が決して「1」にたどり着かない悩ましさがあるように、収束値が例えば円周率πだともっと悩ましくなります。それが今でも限りなく円周率の値が計算されている原因ではないか?と考えられないでしょうか。
さて、訳者の石井さんが担当した『幾何学』の「相似」では、相似変換(縮小写像)によって “シェルピンスキーの三角形” のような奇妙なフラクタル図形が作られて、その図形の次元が1〜2の間にあることが解き明かされます。また、「埋め尽くし」では平面のタイル張りと空間のタブロック積みを扱い、さらに「ペンローズのタイル貼り」では2種類のタイルによる非周期的タイル張りと準結晶の関係を述べています。ここでは、昨年の大発見(1種類のタイルによる非周期タイル張り)について訳注で紹介されています。
この本を画文集だと思ってあちこち見れば、高度な数学も興味深く楽しむことができると思います。また、色々な疑問が湧いてくると思います。その時はお知らせ頂ければ幸いです。